蒼い月の眠る森 番外
 〜 『夏』をテーマにしたはずなのにもう8月下旬じゃねぇかこのヤロォ――ッ!! 〜

「第358回『あおもり』総勢肝試し大会ぃ―――――!!!」
 一人浮かれて太鼓叩くわホイッスル吹くわ孤独に騒いでいるダメな大人が此処にいる。神名優一(かんなゆういち)だ。
「300回もやってねぇだろ――がッ!!」
 一人ドンチャン騒ぎを行う優一にツッコミを入れる少年が此処に一人。
 氷室雷弥(ひむろらいや)、この周囲では数多い『ツッコミ』属性の一人である。
「いやぁーこういうのはちょっと水増しするのが良いんだって」
「355って水増ししすぎだろ明らかに!!」
「で? また前みたいな肝試しをするって言うの??」
 そんな二人の間に割って入った少女の名は神名愛姫(かんなえひめ)、優一の娘である。

 一応……。

「一応って何さ!? コレでもちゃんと血繋がってるよ!!?」
「えぇ、認めたくないけど。」
 愛姫は笑顔で毒づいた。
「前回あまりにも他愛なさ過ぎて帰ったではないか、イーストウッド一人除いて。」
 優一に対して毒づく人がもう一人。
 ハチマキとロケットペンダントが印象的の少年・鉄社雷(くろがねしゃらい)。
「え? アレから皆帰っちゃっていたの!? ヒドッ!!」
 驚愕の真実に縦ロールの金髪少女もといリリア・イーストウッドは固まった。
『まぁ客弄りはその辺で、第三回「あおもり」総勢肝試し大会を始めようと思う』
 抑揚の無い淡々とした低い声が鼓膜に響いた。
 優一が佇んでいたお立ち台にズカズカとマイク片手に高3コンビ・虎杖秋鹿(いたどりあいか)と蜩上(ひぐらしかむら)が代理司会を務めだした。
『ルールはまぁ前回と同じ感じに2人のチームに分かれてテルマの森を一周してもらう。 安心しろ一応道標になりそうなものは立てておいた。』
「道標?」
「何使ったんや?」
 関西弁コンビ・嵩嶺森(たかみねしん)&日向椿(ひゅうがつばき)が道標について問う。
『一応上の力によって出来た光が矢印状になって点々とあるそうだから探せ。』
「それ道標なっとらへんやん!!」
 秋鹿はツッコミを軽く流す。
『で、前回優一だけでくだらないと言う意見が続出したので今度はお互いのチームで脅かし合ってもらう。』
「あ、それ面白そうだな。」
 雷弥もその提案に僅かな笑みを浮かべる。
『んじゃメインのチーム決めです、年齢の若い順にクジを引いて同じ色の付いた箸の人とペアになって下さい―――!』
 若い順にクジの割り箸を持っていき、組み合わせが決まった。


 結果

 赤:愛姫・秋鹿 青:雷弥・楓 黄:社雷・森 緑:椿・リリア 紫:上・優一

(また虎杖君とペアになれなかった…っ!!)
 上は劇画調の顔になりながら自分のくじ運の悪さを呪った。
 そんな乙女の心情なんて露知らず、秋鹿は同じ組み合わせの愛姫の所へ向かう。
 引きずられる形で森の中に入った上を、森は哀れみの目で見送った。



「にしても…脅かし合うんだよなぁ――」
 一体どのチームから行く?と、雷弥は少し後ろを歩く楓に問いかける。
「そうですね、肝試しですから…面白いリアクションをしてくれる人を脅かすべきかと…」
「となると愛姫、上、森ぐらいが丁度良いか…」
「私としては鉄君や虎杖さんの驚いた顔と言うのを見てみたい気がするんですが……」
「無理な相談だなそれは。」
 この肝試しにおいて一番の難題と言えるのが社雷と秋鹿である。
 社雷は逆に幽霊が怯えるような凄みがあるし、秋鹿は常時無表情ゆえに驚かしても面白味がない。

 で、そんな難題の塊が入る秋鹿のペアは
「キャァ――」「ほきゃ―――!」「きょえぇ―――――ッ!!!」
 愛姫の悲鳴が連続した。
「…煩い…」
 普段無表情の秋鹿も流石にその悲鳴に参って不機嫌丸出しの顔になって両手で耳を押さえている。
「何がそんなに怖いんだ」
 呆れた調子で秋鹿は愛姫に問う。
「だ…だって普通怖いでしょ!? 空飛ぶゴキブリとかストーカーとか百合(レズ)や薔薇(ホモ)の世界に浸ってる人とか!!」
「物理的に怖いものだろそれ! と言うかさっきからずっとそんなものが見えていたのかお前は!?」
 再び愛姫の悲鳴が森の中にこだました。
「――全く…」
 秋鹿は耳を押さえながら
「上だってこんなに悲鳴ばかり出さないぞ…」
 呟く。

「にしてもワレァ気難しい顔ばっかりしとるんやなぁ――」
「…は?」
 森の一言に社雷はいつも以上に不機嫌をあらわにした眉間にシワを寄せる。その眼光は並のヤンキーなら簡単に道を通してくれる感じのただならぬオーラが流れ出ている。
「だってしょっちゅう眉間にシワぁ寄せて疲れへんか?」
 そんなオーラをサラリと流して森は続ける。
「仏頂面は生まれつきだ。」
 ぶつくさ言いながら社雷は歩を進めて森との距離を何メートルと離していく。
「大体貴様は何故興味もない事を話す?」
「えー? だってワレ結構謎だらけやさかい、聞きたい事色々あんねん(そんで隠れファンに情報を売る)。 思春期やから好きな人の一人や二人ぐらいいるやろー?」
 早歩きで彼に追いつこうとしながら森は語る。
 突如、社雷の足が止まった。その左手は僅かに震えている。右手の指先はロケットペンダントに触れていた。
「…あぁ――、やっぱそういうのおるんか。 それもその人物はロケットペンダントの写真の人物と来たか、解り易い反応おおきにな。」
 森は怪しい眼光を放ちながら手をワキワキと動かした。
 社雷は謎の悪寒に襲われ、恐る恐る肩越しで森を見る。襟首に一筋の冷や汗が伝う。
「覚悟ぉ―――――ッ!!!」
 直後、飛び掛った。
 普段無愛想仏頂面の社雷にしては珍しく取り乱した表情で、胸の辺りに垂れ下がっているロケットペンダントを死守していた。

「フフフフ…」
 夜空の下に、怪しい笑いが一つ。
 優一からだ。
 二人の前には愛姫・秋鹿ペアの映像が映っている。愛姫は涙を流して絶叫し、少し離れた秋鹿は鬱陶しそうに霊を払っている。
 優一は楽しそうに手を動かす。どうやら愛姫の周囲に現れる幽霊は優一の仕業らしい。
 上は道標に力を使っているので脅かす側になる事は出来ず、映像(特に秋鹿)を見ていた。

 椿・リリアペア
「一体どういうのがくるんやろーな…」
「さぁ……」
 二人は少し身構えていた。
 瞬間
 生暖かい風と共に、落雷が轟音と響く。
「雷弥さんですね…。」
「せやね」
 目には目を、歯には歯を…椿はカードを取り出す。
「『雷』には、『雷』をやっ! 『レイプトレイ』!!!」
 稲妻が広範囲に渡って波紋のように伝わった。


 怪奇現象の原因と言うのは、強力な磁場や電流らしい。
 つまり、肝試しにおいて雷系を操るものは最強と言えよう。
「!?」
 社雷は逃げながら稲妻の気配に気付き、銀色のマジックカードを出し、地面に叩きつける。
「トウ・アーシー!!」
 自分を囲むように土を集め、向かう稲妻に対応する。
 森はロケットペンダントを取るのに必死で稲妻の存在に気付いていなかったのか、直に喰らった。
「大丈夫か嵩嶺?」
 魔法を解除した後、倒れうずくまる森を見る。
 彼女の反応は無い。
「オイ、寝るな。」
 彼女の反応は無い。
「…………仕方ない。」
 溜息ひとつ吐いて社雷は森を抱えた。世に言う『お姫様抱っこ』と言う形で。
 少年は走った。誰にもこの姿を見られたくないとばかりに、加速した。
 担げば問題ないと言うのに…
 チャリ、と金属が擦られる音がした。
 社雷は金属…ロケットペンダントがある方向を見下ろす。
 森がロケットペンダントを開けようとしていた。
 頑丈なロケットペンダントに森はイラつきながら開けようとしていた。
 即刻社雷は放り投げた。
「くっ…固すぎやでそのロケットペンダント……」
「当たり前だ、誰にも見せたくないからな!! てか見ようとするな、再度挑戦しようとするな…って飛び掛るなぁ―――!!!」
 少年は再び全力疾走した。少女はそれに追いつこうと走った。





「ところでこれってどうやって終わらすの?」
「さぁ…考えていませんでしたね」


  終わり

此方あみ様にキリリクした小説、面白かったのでお礼でも。
蒼森メンバーで肝試し返ししてみて玉砕したもの。
 こんなので宜しければどうぞ受け取ってくださいまし…。

社雷君、いっぱいいっぱいな夜でした。